アラブ事情

【レバノン】1kgの粉ミルクを巡って大喧嘩

レバノンのベイルートのスーパーで1キロの粉ミルクの袋の為に大喧嘩というのが話題になりました。
本題に入る前に、背景を説明します。
レバノンは経済が崩壊して、デフォルトを起こしたりして、レバノン通貨価値は下がる一方。追い討ちをかけるように、この3か月で闇ドルは1ドル8000リラから1万リラに、つまり3か月でお金の価値が2割も失われてしまいました。
年金はかつて貧しい国が1か月100ドルでどうやって暮らしているの?と言っていたレバノン人の最低年金が闇レートで60ドルになってしまいました。この金額では1か月分のパン代にも足りません。
レバノン軍も国民の一部。銀行からはお金がおろせないし、給料は足りないし、軍の予算が減らされて、食事も粗末なものから支給されないまでになってお腹を空かせて、軍から逃げる兵士が続出。レバノン軍が崩壊しそうな状態です。
レバノン人は外国にもの凄い金持ちもいますし、1200万人もの外国にいるレバノン人の仕送りで、国内の400万人がなんとか暮らしているといわれています。外国からの仕送りがない人たちは悲惨を極めています。
人々は生活を切り詰めて、肉は食べず、野菜と政府補助のついた米やブルグルや小麦などを食べています。停電、断水も酷く、政府の石油の貯蔵量が無くなって燃料価格もものすごく高騰しています。
ベイルートの爆発で小麦のサイロが吹き飛んで、小麦不足になった時は、イラクが小麦を援助で送りました。今度の燃料不足もイラクは援助でイラクの石油をレバノンに送りました。
イラク自身経済が破綻していて、公務員の給料や年金の支払いが遅れているというのに、イラクが他国を援助する余裕なんかあるのか!という国民の怒りの声もありましたが、イラク人は気前が良いので、あるいはそれ以外の政治的な理由があったのかもしれませんが、レバノンを援助しました。
所詮、焼け石に水ですが、。
前置きが長くなりましたが、本題のスーパーの動画。

政府補助のついた粉ミルクを男性客が何袋もカートに入れて、子持ちの女性が買いたくても棚に一袋も残っていませんでした。それを見て、お店の従業員の男性が男性客のカートからミルクを一袋取って女性に渡したところこの騒動になったそうです。
アラブ人なら、カリームつまり困っている人を助けて、与えられるものなら気前良く与えるのが美徳。
男性は女性に優しくするもので、子どもに飲ませたいミルクがなくて嘆いているのを見捨てられませんし、買い占めるという行為は間違っています。
それで女性が困ってても平気とは世の果て。それもたかだか粉ミルクの袋一つでこんな騒ぎになるなんて、嘆かわしい。
あの豊かでエレガントなレバノン人が、こんなにレバノン人らしくない事をするほど追い詰めた政府に腹が立つ!という事で炎上しているのです。
イラクも経済制裁でモラルハザードを起こしました。レバノンでもモラルハザードが起きていますね。
「衣食足りて礼節を知る」
「金持ち喧嘩せず」
などなど、言い伝えや諺、格言というものは本質をついていますね。

ABOUT ME
アビール・アル・サマライ
イラク・バグダッド出身。バグダッドのテクノロジー大学コンピューターサイエンス学部卒業。湾岸戦争後の1991年末に来日。アラブ・イスラム言語文化専門シンクタンク「ハット研究所」所長。中東情勢や中東メディア報道研究、イスラム・中東問題の勉強会、ハラルやムスリム対応のビジネスコンサルティングなどを手掛ける。外務省研修所、慶應義塾大学、学習院大学非常勤講師。NHKアラビア語ラジオ講座出演。